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心理学から学ぶ 「ブランディングデザインの法則」
2023.03.09
ブランディングデザインの法則「マジカルナンバーの法則」
心理学から学ぶ 「ブランディングデザインの法則」
なぜか入りたくなるお店やつい見てしまうポスター、思わず買いたくなる商品など。
心理学から学ぶ「ブランディングデザインの話」を掲載しています。
皆さんこんにちは。ブランディングデザイン会社「株式会社SUPERBALL」です。 暖かい春先を感じるこの頃ですが皆様お変わりはないでしょうか?
私にとっては季節の変わり目と言うのはどこか自然のマジックに遭遇できている気がして気持ちも高揚しやすいです。そういうマジカルな時期にピッタリな、「情報構成とデザイン」に関する心理学を今日はご紹介したいと思います。
弊社ではブランディング全般のご対応をさせていただいていますが、主要なカテゴリーにグラフィックデザインのプロジェクトが多くあります。平面を使い、デザインによって情報を伝えるグラフィックデザイン。それはロゴやピクトなどの記号的な物やポスターなどキャッチコピーが一文ほどあるものもありますが、ミュージアムの展示やwebデザインなどになると伝える情報量は多くなり、その分デザイナーとしても視覚的な面白さと同じぐらいに情報のクオリティ、そして読みやすさを意識してデザインを進める必要があります。
プランナーがデザイナーとの間に入って情報を整理する場合もありますが、デザイナー自身も能動的にクオリティの高い情報をエンドユーザーに届けたい想いを持って進めることで最終的なアウトプットのクオリティも上がってきます。
今回はそうした情報整理に役に立つ数字の心理学、「マジカルナンバー」と「チャンキング」について少しお話したいと思います。
マジカルナンバーの法則
さて質問です。下記の数字の羅列を皆さんは20秒で記憶してくださいと言われた場合、2点の内どちらが覚えやすいと感じますか?
4 5 6 7 8 3 8 8 2 1 3 5
4567 – 8388 – 2135
下の方が少し覚えやすそうかなと思った人が多いのではないでしょうか?
これは人間の短期記憶の機能に関係しておりマジカルナンバーの原点にあります。
「マジカルな短期記憶」「積み重ねの長期記憶」
人間の記憶は大きく感覚記憶、短期記憶と長期記憶とにカテゴリー化されていると言われています。短期記憶は咄嗟の判断やその場での物事の整理に使われ、長くて数日、早くて数秒で忘れる内容が多くあります。対して長期記憶は短期機能を何度も同じ内容に活用することで身体に刷り込ませることで身につくものです。
記憶というと暗記などの長期記憶の方をイメージしがちですが、短期記憶はその原動力でありワーキングメモリとも言われています。必要なインプットをして行動に移す事を可能にする柔軟性を持っており、毎日の生活に貢献してくれています。
そしてこの短期記憶には限界があることをジョージ・ミラー教授がマジカルナンバーの法則と銘打ち1950年代に論文を発表しました。
当初提唱された時、マジカルナンバーは一度に7個前後の「チャンク」まで覚えられるとされ、およそ7±2のチャンクが限界と言う結果でした。記憶の研究はそれからも行われていく中で度々検証され、2001年にネルソン・コーワン教授によってマジカルナンバーは4±1に是正され、今では人間は一度に3~5個のチャンクを簡単に記憶に留めることが可能とされています。
(ちなみに、先ほどの数字の羅列、再度見ないで合計何個の数字が並んでいたか覚えていますか?もし答えられたらマジカルな効果が活かされているかもしれません。)
チャンク?
それでは先ほどの数字の羅列を改めて見てみましょう。
4 5 6 7 8 3 8 8 2 1 3 5
4567 – 8388 – 2135
もちろん長期記憶を使って暗記をしようと思えばどちらでもできます。
ただすぐに覚えてくだいと言われると上はちょっと無理そうなのに対して、下の羅列はまだいけそうな気がしませんか?これがまさにチャンクの概念です。
チャンク(Chunk)は英語で「塊」という意味で、「情報が複数あってもそれらがまとまってさえいれば一つの塊として理解できる」ことを指しています。
このため、上の羅列だと数字が全て単体で記憶対象になり、12チャンクに見えています。12チャンクは短期記憶的には多すぎて、これを記憶する事に少し抵抗感を覚えます。長期記憶を活用させる必要がある、短期記憶だけでは無理そうという脳内の声が聞こえてきそうです。
それに対して、下の羅列は4チャンクを1つのチャンクに統合することで、パッと見のチャンク数が3になりました。3~5チャンクが限界の短期記憶の頭の中でも整理ができそうと精神的に安心しながら記憶してみようという気持ちになれます。このまとめる作業をチャンキングと言うようです。
上の羅列を見て電話番号っぽいと感じた方もいると思いますが、長い数字の羅列を区切った電話番号や市外局番はマジカルナンバーとチャンキングの法則に従っている好例です。
マジカルなデザイン応用
応用-1 : マジカルなプロジェクトか事前に確認
デザインを始める前に、ユーザーが長期記憶を活用するモノか、短期記憶を活用するモノをデザインしているのか、方向性を確認しましょう。教科書や書籍、専門性の高いwebサイトなど、何度も繰り返して読み返し、ユーザーが学習する想定がある場合、マジカルナンバーはさほど気にしなくても大丈夫かと思います。
逆に歩きながら見る展示、空き時間で見るパンフレット、ネットサーフィンしているユーザーは短期記憶を活用している事を意識して伝えたい情報を整理しましょう。伝えたい内容が3~5点に収まらない場合、下のチャンキングを活用してチャンクが3~5に抑まるように整理するとユーザーにとって読み込みやすいデザインに仕上がるはずです。
応用-2:3~5項目以上ある場合はチャンキングでマジカルに
例えば新規オープンするイタリアンレストランのメニューをデザインするプロジェクトがあるとします。
品数の多いお店ですね。ただこのままだとどこに何があるか分かりずらいと感じますでしょうか?イタリア語の商品名をすでに知らなければ、さらに迷ってしまいそうです。ここでお客様にスムーズに選んでもらうため、チャンクできそうな品をまとめて情報を整理してみましょう。
3個のチャンクにまとめた事でだいぶ見やすくなりました。ただこの場合でもFOODSのチャンク内が6個以上になっていたり、DRINKSも6個とギリギリなため、もう一度チャンキングアップができるか見てみます。
ピザ、サラダ、パスタなど、それぞれのチャンクの中も最大5チャンクに抑えた情報構成になりました。お食事→トマトソースベースのパスタ→商品と、大きな判断から順番にできるようになり、イタリア語の商品名が分からなくてもある程度絞ることができるためお客様もストレスなく注文ができます。
応用-3:展示グラフィックもマジカルに
ミュージアムで活躍する展示グラフィックとサインにもマジカルナンバーの感覚が活かされています。鉄道博物館などは壮大な敷地内で電車好きが喜ぶ様々なコンテンツがあり、一日では全部見て回れないほどの見応えがあります。そうした膨大なコンテンツを来場者に楽しんでもらうため、当館では電車にちなんで「ステーション」という5つのチャンクを作りコンテンツを整理していました。
こうした住み分けを行う事で来場者はまずどういった内容を見たいか決めてからそのエリアに向かえて、そこからさらに細かいアクティビティを決めれると言う大きな流れを作っています。
弊社では当博物館の歴史ステーションの年表部分の展示グラフィックを担当させていただきました。日本での電車の歴史を全て掲載することからとても膨大な情報量を展開する必要がありましたが、ここでもマジカルな構成配慮がされています。5チャンクを出来る限り超えないよう、情報構成では年代をまず5期に区切りました。そこから各期の大項目3~5個、中項目は5未満(少し多くて6もありますが)、その内の小項目も5未満に抑えて展開しました。こうする事で膨大な情報をチャンキングすることで、来場者にとっても内容が整理しやすいようにしています。
多い情報はマジカルにチャンキングを
いかがでしたでしょうか?マジカルナンバーは定義が4±1なので広域に渡り、選択する量が多いと悩む「ジャムの法則」(=マジカルナンバーを超えている)、スティーブジョブズがプレゼンで活用した「3の法則」(=マジカルナンバーの最小単位)など様々な心理学の素になる、まさにマジカルな基礎でした。
根本的でもあるため法則を知らなくても、直感的にレイアウトやデザインをマジカルナンバーに整理されている方も多いのではないでしょうか?こうして心理学的に説明が出来ることで、今後プロジェクトで情報が煩雑になっている感覚がある時、マジカルに整理出来るか立ち止まって検証出来たり、提案資料の補足になると幸いです。