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心理学から学ぶ 「ブランディングデザインの法則」
2024.07.26
損しないための意思決定「プロスペクト理論」
心理学から学ぶ 「ブランディングデザインの法則」
なぜか入りたくなるお店やつい見てしまうポスター、思わず買いたくなる商品など。
心理学から学ぶ「ブランディングデザインの話」を掲載しています。
皆さんこんにちは。ブランディングデザイン会社「株式会社SUPERBALL」です。
すっかり日差しも強くなり、気候も夏らしくなってきましたが、
暑さが続くこの季節、体調管理には十分気をつけていきたいものですね。
ところで、皆さんは宝くじを買って、損をした経験はありますか?
夢のあるものに見えますが、はずれだらけの結果を見た時、なんだか虚しい気持ちになりますよね。
今回は、そんな損得に対する意思決定、「プロスペクト理論」について紹介します。
「プロスペクト理論」とは?
「プロスペクト理論(prospect theory)」は「人は損失を回避する傾向があり、状況によってその判断が変わる」という意思決定に関する理論です。プロスペクトとは「見込み、展望、期待」といった意味ですが、これは確率的な意味合いでの期待となっています。人は確率的に不確実な状況であっても、「見込み」で期待値を歪めてしまい、客観的な事実だけで合理的な意志決定できなくなるというのです。
プロスペクト理論は、行動経済学の理論のひとつです。心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって1979年に提唱され、行動経済学の基礎を築いたという理由で、2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。
損失回避の法則
プロスペクト理論には「損失回避の法則」があり、カーネマンらは「一つだけの質問による心理学」と呼ばれる実験で実証しています。この実験では、次の2つの選択肢が用意されました。
A:100万円が無条件で手に入る
B:コインを投げて表なら200万円全手に入るが、裏なら何も受け取れない
期待値はどちらも100万円で同じですが、この場合ほとんどの人がAの選択肢を選びます。しかし「あなたが200万円の負債がある場合、どちらを選びますか?」という条件を追加すると、大半の人がBを選択しました。これは、自分が置かれた「200万円の負債がある」という状況から感情に歪みを生じさせ、確実な100万円よりも、マイナスを帳消しにできる200万円を得る可能性を優先した結果だと考えられます。
プロスペクト理論を支える2本の柱
プロスペクト理論の柱としては、「確率加重変数」と「価値関数」があり、この2つの要素が意思決定にかかわってきます。ここでは「確率加重変数」と「価値関数」について、それぞれ見ていきましょう。
◯確率加重変数
プロスペクト理論の「確率加重変数」では、「人は確率が低いときに大きく評価し、確率が高いときには小さく評価する」としています。つまり、人は確率について客観的・合理的にではなく、主観的に判断しているのです。
具体的には、宝くじがわかりやすいでしょう。客観的に考えれば、宝くじの当選確率は限りなく低いでしょう。しかし、実際は「確率加重変数」で期待値が歪められ「もしかすると当たるかもしれない」と購入する人があとをたちません。これは確率加重変数によって「あるかもしれない」と感じているからです。
◯価値関数
プロスペクト理論の「価値関数」では、「人は1万円手に入れるよりも、1万円損するほうが精神的に大きく作用する」としています。これは「損をする」ことのほうがより大きいショックを受けるということで、先ほどの確率の感じ方だけでなく、価値の感じ方についても主観的に判断していることを示しています。
ただし、これは少額であることが前提ですので、10億円のような大きな金額になると同じ理屈にはなりません。
プロスペクト理論でわかる3つの心理作用
プロスペクト理論には「損失回避性」「参照点依存性」「感応度逓減性」という3つの心理作用があります。これらの心理作用がどのようなものか、マーケティングに利用するならどのようにアプローチすればいいのを見ていきましょう。
◯損失回避性の心理作用
損失回避性とは、「手に入れる」ことよりも「損をする」ことを回避する方を選ぶ心理作用のことです。これは、価値関数で紹介したように、得るよりも失うショックが大きいという、「価値の感じ方の歪み」が働くからです。
この心理作用を踏まえると「このツールを利用することで年間30万円の利益がでます」よりも「このツールを利用することで年間30万円の無駄をなくせます」と伝えるほうが、消費者の損失回避性に訴えかけられるアプローチになると考えられます。
◯参照点依存性の心理作用
参照点依存性とは、価値を「絶対的ではなく、相対的」に判断する心理作用のことです。たとえ最終的に支払う金額が同じであったとしても、元値となる「参照点」から割引されているかがわかるとお得に感じ、相対的に価値を高く感じます。
この心理作用を踏まえるなら、もともと20万円の商品が1割引で18万円になっている場合、単に18万円という金額を伝えるだけでなく、参照点となる元値の20万円を伝えるほうが、より価値を高く感じてもらえるアプローチになります。
◯感応度逓減(ていげん)性
感応度逓減性とは、同じ損失額でも、母数が大きくなるほど鈍感になるという心理作用のことです。例えば、1,000円で買った商品が後日800円で売られていた場合と、10万円で買った商品が後日9万9,800円で売られていた場合とでは、同じ200円の損失でも、ショックを受ける度合いは異なります。母数が小さい1,000円で買った場合の方が、ショックは大きいのです。
この心理作用を踏まえるなら、100万円の商品を99万円に割引したところで、消費者はあまり価値を見いださない可能性があることを知っておきましょう。
マーケティング施策を実行する上で、プロスペクト理論といった人の行動原理を読み解くことは重要です。人の行動原理を紐解く「行動経済学」をマーケティングに活用するポイントをわかりやすくまとめた資料を公開中です。そちらもぜひご参照ください。
プロスペクト理論の活用方法
◯損したくないという気持ちを利用する
人は損を回避しようとする気持ちを利用すると、人の行動を誘導しやすくなります。
限定価格、期間限定などのような条件付けもその一つです。「今契約すると、10,000円割引します!」のような広告を見かけることも多いのではないでしょうか。
限定にすることで、「今を逃すと損をしてしまう」という心理が働き、あまり必要としていないものでも、購入する可能性があります。期限付きのポイント付与や返金キャンペーンも方法の一つです。このテクニックは「フィア・アピール」と呼ばれています。
また、商品を使わないことでの損を強調する方法もあります。「このサービスを利用しないと、将来大変なことになります」とPRするテクニックです。保険や化粧品、金融商品などの広告でよく使われます。
◯リスクを取り除く
人は損失を回避したいという性質を利用し、損やリスクを取り除くことで、購入や契約を促しやすくなります。これがリスクリバーサルというテクニックです。具体的には以下のものがあります。
・返金保証を付ける
・無料お試し期間の実施
・修理補償
これらの要素があると、「失敗したとしても安心できる」と感じ、顧客の購入を促しやすくなります。特に通信販売など、目で商品を確認できないものについてはより重要なテクニックです。
快いサービスを提供するために
いかがでしたか?今回は損しないための意思決定、「プロスペクト理論」についてのお話でした。
プロスペクト理論は、マーケティング施策だけでなくコピーライティングにも応用できます。しかし、キャッチやコピーにプロスペクト理論を応用しようとすると、恐怖を煽ったり、焦らせたりするメッセージばかりになりがちです。
プロスペクト理論に限らず、行動経済学などの各種理論は、消費者を煽ったりだましたりするためではなく、消費者が何を不安に感じるのか、どのような情報が欲しいのかを知るためのヒントとして扱うようにしましょう。