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心理学から学ぶ 「ブランディングデザインの法則」
2023.05.25
ブランディングデザインの法則「プラセボ効果」
心理学から学ぶ 「ブランディングデザインの法則」
なぜか入りたくなるお店やつい見てしまうポスター、思わず買いたくなる商品など。
心理学から学ぶ「ブランディングデザインの話」を掲載しています。
皆さんこんにちは。ブランディングデザイン会社「株式会社SUPERBALL」です。
5月もあっという間に後半です。お天気も夏のように暑く晴れた日もあれば一日中雨で肌寒い日が続いたりと変わりやすい日々が続いていますね。寒暖差が激しく体調も崩しやすいと思います。皆さんも風邪をひかないようにお気をつけください。
「病は気から」とよく言いますが、心の状態と身体の健康について関わっていると感じることがある方も多いのではないでしょうか。「プラセボ効果」も心理的な要素から起きる現象の一つです。薬に病気を治す有効成分が入っていないにも関わらず、患者さん自身がこの薬には効果があると信じて服用することで症状が改善する現象のことを言います。
医療現場に関わらず、思い込みが結果に良い影響を与えるような現象のことを一般的にもプラセボ効果と呼ばれています。ビジネスや日常においても活用されているシーンはたくさんあるのではないでしょうか。今回はプラセボ効果について取り上げてみたいと思います。
プラセボとは?
プラセボ(Placebo)の語源はラテン語で「私は喜びます」という意味があります。この語源からも患者さんの心理的な安心感を促すために使用されていました。のちにアメリカの医師ヘンリー・ビーチャーによってプラセボ効果の概念が広まっていき、現在も医療現場では臨床試験や研究において実際の治療と比較するためにプラセボ薬などが使用されています。
医療現場においてのプラセボ効果は先にお伝えした通り、患者さんの信念や期待などの思い込みが治療や介入の効果に影響を与える現象です。偽薬などの治療方法が実際の治療と同様の効果をもたらすことを意味します。
このことから、プラセボ効果をもたらすには信念や期待のような思い込み状態をつくることが必要です。具体例を探ってみましょう。
見た目で感覚が変わる?
見た目によって味が変わることはありませんか。彩り豊かに料理が盛り付けられているとより美味しく感じます。商品パッケージも美しいもの、高級感のあるものなど、デザインによって味の体感も変わっていくのではないでしょうか。
環境デザインもプラセボ効果をもたらすことがあります。例えば自然を模したものからリラックス効果を得られることはないでしょうか。フェイクグリーンなどで屋内を緑化させることで自然にいる感覚を得ることでプラセボ効果が癒しの反応をもたらしてくれるかもしれません。
温度についても視覚情報から感じ方が変わることはありませんか。赤、黄、オレンジ、ピンクなどの暖色系の色はよく暖かさを表現する時に使われ、空間に心地よい雰囲気を醸し出します。照明デザインとしても間接照明や温かい色温度の光の照明器具を選ぶことで柔らかい光が広がり暖かさを演出することができます。火の揺らぎを演出したキャンドル照明もあるように、実際は温度を上げる効果がなくても視覚的な効果のみで暖かさを感じることができるのはプラセボ効果によるものではないでしょうか。
これらは過去の経験にすでにある記憶が思い込みとして引き起されると考えます。「色鮮やかな料理は美味しい」、「自然に触れると癒される」などの過去に得た経験から、AならばBであるに違いないという条件反射的に作用しプラセボ効果がもたらされるのではないでしょうか。
思い込みでパフォーマンス向上
先ほどは過去の経験によるところからの例を挙げてみましたが、もう一つは「新たに思い込み状態をつくる」ことが考えられます。「自分は絶対に目標を達成できる」といった自信や期待できる心理状態をつくることです。例えば、コミュニケーションや情報から自信やポジティブ思考を作ることが挙げられます。
仕事においては社員や自分自身のパフォーマンスの向上につながるかもしれません。
・部下へのマネジメントの際には自信や希望を与える言葉を使うことや肯定的なフィードバックをを与えること
・オフィスなどにポジティブなメッセージや成功を象徴するグラフィックイメージ、チームの目標や成果を示すボードなどを取り入れること
・自身や他人にもロールモデルを設定することや成功した人物や事例をみること
などモチベーションが高まることを取り入れていけば、パフォーマンスの向上へつながるのではないでしょうか。私も上手く行かないときなど気持ちが下がっている時はポジティブな気持ちになれるように明るい映画を観たりします。冴えない主人公が努力して目標を達成するようなストーリーは、自分にも出来るのではないかと思わせくれて仕事や勉強を頑張る活力となりそうです。
以上のことからプラセボ効果を引き起こすための思い込み状態をつくるには大きく2つ、
1.過去の経験から思い込みを引き出すこと
2.新たに思い込み状態をつくること
が考えられるのではないでしょうか。
1.と2.についてそれぞれ具体例を挙げてみましたが、それぞれが相互に関連してプラセボ効果がもたらされると考えます。
例えばスポーツや演劇などのパフォーマンス向上においてもいくつか挙げられます。
・スポーツ選手のユニフォームや演劇の衣装から、自信やチームスピリットを高める
・特別なアイテム(靴やグッズ)を使うことを信じることで自信が持てる
・ルーティンや儀式を行うことで自信が持てる
勝負事にカツ丼を食べることなどゲン担ぎをしている方もいますよね。プラセボ効果はこういったことを疑わずに信じることができるということが大切だと思います。
弊社が展示グラフィックに携わった「板橋区立 植村記念加賀スポーツセンター 植村冒険館」も先に挙げた2つの要素がデザインに取り入れられています。
環境デザインとして北極を連想させるようなホワイトを基調にしたカラーリングやダイナミックなグラフィックは臨場感を持って冒険家・植村直己の軌跡をたどることのできるデザインにしています。また階段壁面には彼の著作から引用した言葉が展開され、彼の冒険精神「ウエムラ・スピリット」から勇気をもらうことができます。彼の冒険への道のりを擬似体験することでプラセボ効果が得られるのではないでしょうか。
プラセボ効果は医療においては実際は効果的な成分が含まれていない薬を、患者さんが効果があると思い込んで服用することで効果が得られるというものです。
ビジネスや日常で私たちがプラセボ効果を活用する際に重要な点として倫理的な問題を伴うことを認識して、情報の偽装や顧客を欺くような行為につながることを避けることです。
また個人の感受性や観点によって効果が得られる効果は異なります。本物の価値がない場合、その効果一時的なものであり長期的な成功は期待できません。そのため過剰な表現はせずに、そこに備わっている価値を正しく作用させる方法の一つとしてプラセボ効果を意識してみるのはいかがでしょうか。