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心理学から学ぶ 「ブランディングデザインの法則」
2022.12.15
ブランディングデザインの法則 「サンタさんとザイオンス効果」
心理学から学ぶ 「ブランディングデザインの法則」
なぜか入りたくなるお店やつい見てしまうポスター、思わず買いたくなる商品など。
心理学から学ぶ「ブランディングデザインの話」を掲載しています。
皆さんこんにちは。ブランディングデザイン会社「株式会社SUPERBALL」です。年内も余日少なくなり何かと慌ただしい毎日をお過ごしの方も多いのではと思います。それと同時に街路樹がクリスマスで輝いているシーズンでもあります。そうした特別な月にちなんで今日は、「サンタさんとザイオンス効果」について書いてみようと思います。
早速ですが「サンタクロース」という人物を思い浮かべて見てください。どのような雰囲気の方が浮かび上がるでしょうか?立派なヒゲ、体格が大きめで笑顔のおじいさん、おもちゃが詰め込まれた袋や、メガネももしかしたら掛けているかもしれません。そしてその中でも一際印象に残る要素、それは上下でセットされた真っ赤な衣装ではないでしょうか。
さて、サンタクロースの衣装がなぜ赤色なのか?少し興味を持った方や、デザインやブランディングが好きな方でしたら一度は耳にした由来があります。それは「コカ・コーラ社の告知キャンペーン企画がきっかけ」という逸話です。
この逸話のきっかけとなったのは1931年(昭和6)、コカ・コーラ社が販売促進キャンペーンでサンタを起用したところから始まります。当時、大人向けの飲料として定着していたコカ・コーラでしたが、子供目線での訴求を行い新しい市場を開拓するマーケティングを企画。サンタクロースの持つ子供受けの良いポジティブなキャラクター性を活かし、コカ・コーラのブランドカラーに身を纏ったサンタが生まれました。そしてコカ・コーラ社の惜しみない発信力で行ったキャンペーンはヒットし、瞬く間に世界中で赤いサンタクロースのイメージが浸透しました。
この逸話はストーリー性が高く、ブランディングの力やプランナーの発想力を讃えるには持ってこいなパンチの良さがあり、ブランディング界隈を超えて一般的な情報として定着しつつありました。しかし少し掘り下げていくと、正確には「コカ・コーラ社の企画でサンタの服を赤色にした」訳ではなく、「偶然商品とサンタのカラーで赤が多かったからあやかってキャンペーンに起用した。」という、もう少し偶発的な事の運びが姿を表します。下にコカ・コーラ社のキャンペーン前にあったサンタさんの描写事例を3点ほど見てみましょう。
最初はサンタクロースのキャラクターインスピレーションとなった4世紀頃のリスト司祭の聖ニコラウス(これも諸説ありますが)。1800年中頃のチェコの画家、Jaroslav Čermákの描写したイコンを見るとこの頃にすでに装束が赤と白を基調にしている事が分かります。司教の服装として赤は定番であり、聖ニコラウスの行動がサンタの逸話になり出した際自然と赤色の定着が発生したという考えもあります。
次はなんと1914(大正3)年の日本からです。子ども向け雑誌「子供之友」にはすでにみんながおなじみの赤い衣装でサンタさんが登場しています。現代のサンタさんと雰囲気が一緒なのにびっくりです。また下記画像はコカ・コーラのキャンペーンとは別に、1920年代からのアメリカでは有名なイラストレーター、Norman Rockwell(ノーマン・ロックウェル)もお馴染みのサンタさんを描写しています。売れっ子だったロックウェルの画像にインスパイアされたかもしれません。
「コカ・コーラ社の企画で赤色になった」が定着した理由
このようにコカ・コーラ社はすでに描写の定着していた赤い衣装のサンタクロースというキャラクターに目をつけて起用した経緯が見えてきます。ではなぜ「コカ・コーラ社の企画で赤色になった」といった逸話が定着したのでしょうか?
ザイオンス効果というマーケティングでも活用される心理現象があります。何度も繰り返して接触することで、好感度や評価が高まっていくという心理的状態を説明した現象で、テレビやネットCMでお馴染みの商品の方が知らない商品より購入したくなる購買心理もまたザイオンス効果によるものと言われています。Robert Bolesław Zajonc(ロバート・ボレスワフ・ザイオンス)が提唱した心理効果で、別名「単純接触効果」とも呼ばれているようです。
コカ・コーラ社の世界規模のブランド認知へかけるマーケティングリソースですでに「単純接触効果」で赤色=コカ・コーラというイメージが定着していたとします。その状態で別で認知度も高いサンタさんを毎年恒例のマーケティングに組み込んだことによってザイオンス効果の相乗効果が起こり、世界中の人の記憶に切っても切れない赤色の繋がりを生み出したのではと憶測できます。
ザイオンス効果は広告のみではなくデザイン業界の様々なところで活かされています。サイン計画などでも、文字を使わずピクトだけでトイレの誘導サインを表せるのも、長年こうしたピクトとの接触が単純接触効果で広く一般的な記憶に定着したおかげでもあるからです。
コカ・コーラ社が発案者ではなかったという結論ではありますが、発案したと思われるのも1930年代がら90年ほどの年月、毎年広告を打ってきた結果である事を忘れてはならないです。
ピクトが記憶に残るまでに要した時間のように「子供之友」の雑誌の1ページで一度掲載した赤いサンタではなく、90年の歳月をかけたコカ・コーラ社の赤いサンタというイメージが定着したのも、「継続は力なり」という地道な努力の大事さについても考えさせられるエピソードでした。